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「医師不足」はなぜ起こったか? 第3回 PDF 印刷
2009年 4月 09日(木曜日) 21:28

妊婦たらい回し事件(その3)

      日本の医師数は先進国最低レベル

 2008年10月、脳内出血を起こした東京都内の妊婦が、緊急時の受け入れ先になっている7つの病院をたらい回しにされて出産後死亡した事件は、世間に衝撃を与えた。
 その背景には、日本の医療がいま抱える最大の問題「医師不足」がある。
 病院はあっても医者がいない。それで、治療が受けられない。いったいなぜ、こんな状況になってしまったのだろうか?

                 ■

 日本の医師数は、そもそも少ない。2006年時点のOECD加盟国の平均医師数は人口1000人当たり3・1人で、日本は2人。つまり、先進国中、人口比にして最低レベルの医師数なのである。日本の100床当たりの医師数は149人であり、アメリカの76・3人と比べると、なんと約5分の1。ドイツの41・6人と比べても、半分以下である。

 つまり、現在の日本の医師数、約26・6万人を、OECD諸国の平均並みにするには、あと14万人が必要である。
 厚生労働省の検討会が2006年7月にまとめた報告書では、2004年時点で必要な医師数は、週48時間勤務で26・6万人と推計される。しかし、実際に診療している医師は25・7万人で、約9000人足りない。休憩などを含む病院滞在時間を勤務時間と考えれば、不足は約6万人に上るとの試算もある。

 ただし、これはあくまで医師数全体からの見方であり、現実から言うと、医者不足の深刻さは、特定診療科への集中や地域間による偏在からきている。
 たとえば、人口100万人当たりの脳神経外科医数は日本が47人で、韓国の39人、アメリカの18人などをしのいで世界で最も多い。心臓外科医数も、人口比で比べると日本がアメリカの2.7倍、ドイツの3.3倍になっている。
 その一方で、前述したように産婦人科医は急速に減っており、また、小児科医不足も問題となっている。ただ、小児科医の場合、2006年の時点で約1万4700人が登録されていて、全体数としては10年前に比べて7%増えている。では、なぜ小児科医不足が問題化しているのかと言えば、それは、地方においてである。

 たとえば、徳島大学では26人いた小児科の医局員が2008年には18人に減り、それまで大学が派遣してきた地方病院の小児科医を引き上げざるをえなくなった。また、兵庫県丹波市の県立柏原病院では、医師数の減少から小児科存亡の危機となり、地域の母親たちが、ちょっとした風邪やケガで休日や夜間に病院に駆け込む「コンビニ診療」を自粛するようになっている。

 政府は1973年から、1県1医科大学の設置を目指し、医師数を増やしてきた。
 したがって、ある時期まで、日本の医者の数は年々増え続けていた。ところが、1986年に「将来、医師が過剰になり、医療費の高騰を招く」との推計が出されると、政府は医学部定員の削減へと政策を転換してしまった。この結果、定員数は、2007年度には、7625人となり、ピーク時より約8%減った。
 ただし、前述したように、ただでさえ少なくなった医者が、偏在するようになったことが、たらい回しなどの悲劇を招く最大の原因だ。これは、都会と地方間の格差はもちろんのこと、同一地域内でも問題化している。

 たとえば、人口10万人当たりの医師数は、東京都が282人なのに、青森県は180人、福島県は184人、岩手県は187人、山形県は203人と少ない。ちなみに、全国平均は218人である。ただし、ただでさえ医師数が少ない地方でも、県庁所在地と周辺部ではまた格差がある。宮城県を例にすると、仙台市が292人なのに対し、仙台市から車で30分しか離れていない黒川郡では45人である。
 こうした医師の偏在は、じつは東京でも顕著で、都心部の千代田区など4区が1191人なのに対して、西多摩地区では124人と全国平均を下回っているのだ。

 では、なぜこんなことになってしまったのだろうか?
 それは、舛添厚労相も指摘したように、2004年度から始まった「新臨床研修医制度」にあるのは、明白だ。
 この新制度が始まる前から、医療環境は大きく変わっていた。まず、医療が高度化・複雑化し、医者の仕事量が増えたこと。患者に対して十分な説明が求められるようになったこと。さらに、入院期間の短縮も加わって、医師1人当たりの負担が重くなったことなどだ。
 この環境の変化をもろに被ったのが、病院勤務医で、彼らの過重労働は日ごと問題化していた。あまりにも仕事がきついので、勤務医が病院を辞めるケースも増えていた。
 そこに、新臨床研修医制度が始まったので、医師不足は一気に加速してしまったのだ。

最終更新 2009年 9月 10日(木曜日) 02:22
 
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