10/03/01●「転院拒否で妊婦死亡」事件、遺族の賠償請求が棄却! 印刷
 2006年8月、奈良県大淀町立大淀病院で、出産時に脳内出血で意識不明となった高崎実香さん(当時32歳)が相次いで転院受け入れを拒否された末、搬送先の病院で死亡するという事件が起きた。その後、夫の晋輔さん(27歳)と長男、奏太ちゃん(3)は、「主治医の判断ミスで転院が遅れた」として、町と主治医に計約 8800万円の損害賠償を求めていたが、3月1日、この訴訟の判決が大阪地裁であった。

なんと、請求棄却である。

大島真一裁判長(島村雅之裁判長代読)は、「主治医に過失はなかった」と認定。ただ、判決文に、「人の命の大切さをもう1度考え、救急医療や周産期医療の充実を求めたい」「産科医が1人しかいない『1人医長』問題への対策を期待する」などと異例の付言を付けるにとどまった。

 ここで、改めて実香さん死亡の経緯を振り返ると、当初、美香さんは、分娩のため、奈良県大淀町立大淀病院に入院。その後、8日午前0時ごろ頭痛を訴えて、間もなく意識不明になり、けいれんを起こした。

 それを見た産科医は、妊娠高血圧症の子癇と診断し、病院は産科救急の転送先を探し始めたが、どこからも受け入れのOKは得られなかった。こうして、19病院から断られた後の午前5時47分ごろ、やっとOKが出た国立循環器病センター(大阪府吹田市)に搬送された。国立循環器病センターの頭部CT検査で、血腫が見つかり、緊急の帝王切開で奏太ちゃんが生まれたものの、実香さんは同月16日、脳内出血で死亡した。

 判決では、「午前0時の段階で脳内出血が生じたと考えられ、救命可能性は低かった」とされた。つまり、すでに手遅れであって、搬送が遅れたという理由がなくとも、実香さんを助けることは無理だったというのである。