14/05/10●「健康・新基準値」の変更で大混乱---いったいどこがポイントか? やはり健康は数値では測れない 印刷
    いま、医者の間、患者さんの間で大混乱を引き起こしているのが、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が4月に発表した「健康・新基準」。新聞も雑誌も大特集を組んでいるが、この混乱は当分、収まりそうはない。

 そこで、この問題をどう捉えたらいいのか、そのポイントを考えてみた。 

《なぜこんな大混乱が起ったのか?》

 それは、健康を基準値という数値で判定する以上、この数値の判定の仕方が変化すれば、正常が異常になってしまうからだ。今回の場合は、基準値が緩和されたので、いままでは異常だった人が正常になった例が多い。

 こうなると、例えば、昨日までは高血圧と診断され、降圧剤を飲んでいた人が、明日からは飲まなくてよくなる。そうなると、「これまでの診断はなんだったのか? 薬代を返せ」と言われてもおかしくない。また、医者のほうも新基準では患者が減ってしまうから、収入に大きく響く。それで、専門学会はいま猛反発しているのだ。

《新基準値のうちのなにが重要か?》

 今回、緩和された基準値は多岐にわたるが、私たちにもっとも身近なものは3つだ。1つ目が「高血圧」、2つ目が「脂質」、3つ目が「BMI」(肥満基準値)だろう。

■高血圧

 たとえば、高血圧症になると、致死率の高い脳卒中や心筋梗塞などの重大疾病を招く危険性が高い。そのため、これまで高血圧の数値はかなり厳しく設定されてきた。「上(収縮期血圧)」が140以上、「下(拡張期血圧)」が90以上で高血圧と診断された。ところが、新基準では上は147まで、下は94まで正常値とされたのだ。

 ちなみに、私が医学生だった40年前は、高血圧は「年齢+90」以上と教えられた。だから、今回の147もまだまだ厳しいと思う。なぜなら、世界の医学界の常識は、「加齢とともに血圧は上がる」だから、たとえ160でも65歳なら問題ないと見たほうがよい。

■脂質と「BMI」(肥満基準値)

 脂質の数値、例えばLDL(悪玉コレステロール)の数値も大きく緩和された。もともと、コレステロール値というのは高いほうが長生きするので、これまでが厳しすぎたのである。BMIも同じで、私は「小太り」を長年勧めてきている。そのほうが長生きするというデータがあるからだ。

《なぜ、ここまで基準値が緩和されたのか?》

 それは医療費を削減しないと国家財政がもたないとする国の意向だろう。医者の団体である学界に任せていては、基準値は際限なく厳しくなるだけだから、厚労省の息がかかった健康保険組合連合会などが公表したのだ。

 2000年度に30.1兆円だった医療費は、すでに40兆円目前に迫っている。このままでは消費税をいくら上げても追いつかない。

《混乱が続くなかで、患者さんはどうすべきか?》

  まず、グレーゾーンだったらクスリや治療は必要ないということを認識する。また、数値を知りたくて健康診断をむやみに受けるのもやめる。健康は数値では測れないと自覚することだ。

 最悪なのは、健診でがんと診断され、無駄な治療で殺されてしまうことだ。がんは、大きく言えば「老化現象」である。健康診断の数値が、年齢ともに悪化するのは当然なのだ。

 近藤誠医師が言うように「集団健診は、過去何十年にもわたって毎年数千万人が受けていても、それで健康になったり、寿命が延びたりしたというデータ的根拠はない。むしろ、病気や異常を告げられることで体調不調になる人が増加しているのが実態であり、廃止すべき」が、本当のところだろう。

 私もこの意見にはおおむね賛成だが、そうすると、医療関係者の多くが生活できなくなってしまうので、悩ましい。