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あなたはなぜ名医に出会えないのか? PDF 印刷 Eメール
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あなたはなぜ名医に出会えないのか?
手術数が多い病院ほど患者の死亡率が低い
「心臓病手術」で実績のある病院を探す
「神の手」を持つ全国の名医たち
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 「名医」とはどんな先生のことか?


 私は、2009年2月に『なぜあなたは名医にたどり着けないのか?』(ソフトバンク新書)という本を出した。タイトルでわかるように、この本は、いまの患者さんのニーズを徹底的に追求したものだ。
 そのニーズの最たるものが、「なんとかいいお医者さんに出会いたい」、つまり「名医探し」である。
 では、あなたは、どうすれば、名医と出会えるのか、まずは、私が以前、『文藝春秋』に書いたエッセイを読んでいただきたい。

名医の条件(月刊『文藝春秋』2007年9月号)


 私は年間約100回の講演を行う。その際に聞かれるのは「名医」についての質問が圧倒的に多い。また私は年間平均で約1100通の紹介状を書く。それは「手術を受けたいがどのような医者がいいのか」「あの先生に診ていただくためにはどうしたらいいのか」という求めに応じてのことである。

 それらの経験からいうと、現代人が描く名医のイメージは、外科医を対象としていることがほとんどだ。確かにCTやMRIなど綿密な画像診断が盛んになった現代では、例えば内科系の医師に求められるのは画像の分析力および判断力などが主で、かつてのように聴診器と問診、触診だけで患者の病名をたちどころに当てるというような「名人芸」は、発揮されにくくなっているのだ。

 その点、外科医は「切ってナンボ」の世界。術後の結果も「成功・不成功」が端的にわかりやすい。どれほど素晴らしい研究であるかよりも、同じ手術を何回こなしてきたかという手術職人としての技術が求められる。それが外科医なのだ。

 外科医の場合は、野球でいえば出場試合数(手術症例数)や打率(成功率)などがハッキリしている。つまり「名医の基準」が素人にもわかりやすい。実際、手術症例数の多さは、手術成功率の高さにも結びついている。
 もともと腕のいい外科医は手術の依頼数も多いから、さらに腕が磨かれる。現場に立つ回数が多いため、ありとあらゆる手術上の困難を前もってシミュレーションできるし、手術中のハプニングヘの対応にも長けている。

 例えば心臓外科の世界では、年間150~200の手術を高い成功率でこなす医師は、国内に30人ほどしかいない。正直なところ、それ以外の医師から心臓手術を受けるのは危険とさえいえる。手術症例数はそれほど大事なのだ。

 手術中の患者は、どのような体調の変化に見舞われるかもしれない。だが、刻々と変化する状況に冷静に対応しつつ、日頃鍛えた腕と瞬時の判断力とで勝負する外科医の「旬」は、あまり長くない。個人差はあるにせよ、外科医の心技体が充実するのは、おおむね35~55歳である。

 また、私の知るある消化器系外科の名医は、今でも手術前に解剖学の本を必ず読む。消化器のことなら知らないことなどないような人と思われ、世間からはいとも簡単に難手術をこなしているようにみられる。だがご本人にとっては、手術は、こなせばこなすほど技術も上がるものの、逆に手術の恐ろしさを知ることにもつながる。そこで常に初心に帰るべく解剖学の本を開く。私はこういう己を知る、謙虚な達人ともいうべき人を尊敬する。

 一方、世間ではいまだに権威があるとされる大学の、しかるべき地位にある人を名医としたがる誤解がはびこっているのは不思議だ。例えば有名大学の講師というだけで、手術の腕とは関係なく関連病院の外科部長に迎え入れられる、などというケースがよくある。大学医学部には官僚世界の天下りシステムにも似たセーフティネットがあって、そんなことがまま起こる。数ある医療事故のなかでも、そうした経験の浅い有名大学出身外科医の凡ミスは、事例として少なくないのだ。

 名医には世間的ヒュラルキーによる権威はまったく意味がない。事実上、自己申告で獲得できる「認定医」や「専門医」等の肩書きも何らの意味を持たない。
 アメリカ帰りというような世間的な「ハク」も、名医とは関係ない。日本とアメリカではそもそも医療のシステムが違うし、アメリカで本当に成功して富も名誉も得た人が途中で日本に帰ってくるはずもないからだ。

 最後にもう1つ、私が考える名医(腕のいい外科医)の簡単な見分け方をご紹介する。例えば手術が決定したときなど、患者さんや家族は執刀医と面談する機会が訪れる。そのときに名刺を患者さんに手渡し、きちんと自己紹介のできる外科医は信用していい。それは「自分に責任がある」ことを明確にする行為だからだ。逆に自分の腕に自信のない外科医ほど、あとあと面倒なことが起きると困るので、自分の個人情報が載った名刺などは渡したがらないという傾向がある。

 いずれにせよ、今はインターネットで、手術症例数なども簡単に検索できる時代だ。いたずらな肩書きや権威に惑わされなければ、自らのちょっとした努力で、名医は意外と簡単に見つかるものなのである。       

 では、具体的、「名医」をどうやって探したらいいのか? 
 例を示して解説する。
 外科手術の腕の確かな医者は、じつは、厚生労働省のデータを活用すれば、ある程度の確率で見つけられる。これまでの病院選びの「常識」を変えるこのデータは、厚生労働省が保管しているが、情報開示が進んだ現在、開示請求をしたマスコミなどに公表されている。

 たとえば、『週刊朝日』は(2008.11.7号および11.14号)で、このデータをすべて公開した。これは、厚生労働省が指定する難度の高い手術(がん、心臓病、脳疾患など)の症例数を、各医療機関が各地の社会保険事務局(地方厚生局)に届け出たものの集計である。これを『週刊朝日』は、どのメディアよりも早く入手して、最新の2001年における1年間(1~12月)のデータを掲載したのだ。
 これを見れば、全国4606病院(医療機関)の手術数が、一目瞭然である。また、こうしたメディア報道を受けて、各病院も、自らのウェブサイトで公開しているので、それを確かめるのも手である。

 厚労省が2008年に公表した医療施設動態調査によると、全国の医療機関数は約10万8000(病院8801、一般診療所9万9578)。そのうち事務局に届け出(10月から各地方厚生局へ移管)があったのは4606医療機関だった。
 したがって、全国の病院の約半数が、このデータでわかるわけだ。

 また、時を同じくして『プレジデント』誌(2008.12.15日号)は、同じデータを手術の症例別に分け、さらに上位15病院にアンケート調査を行った結果を掲載した。これは、たとえば、心臓病、脳疾患、肺がん、食道がん、肝臓がんなどの手術別の手術数ランキングだから、ランキングの高い病院ほど、その分野の外科の名医がいるといっていい。

 また、ネットでは、読売新聞の『YOMIURI ONLINE』の「医療」記事は充実しており、「最新治療」や「病院の実力」(読売ウィクリーの臨時増刊にもなっている)は、同じようなデータと取材で情報を提供している。さらに、ネットでは最大規模といっていい病院ランキングを載せ手いるのが『オリコン 病院ランキング』で、このランキングは満足度で決まり、口コミ情報も豊富だ。また、朝日新聞のWebサイトにも「いい病院ランキング」があり、これも活用できる。

   
 つまり、こうしたデータを見ていけば、それぞれの分野で難手術が実施可能な「トップ病院」がどこかは、容易に知ることができる。

 では、手術数はどう読み解けばいいのか? 日本胸部外科学会は2006年、手術数が多い病院ほど患者の死亡率が低いという調査結果を公表している。このように、医学界においても手術件数は重要な指標だとする見解があるわけで、数が多ければ多いほどいいと考えて間違いない。

 また、手術項目だが、これは素人が読み解くのは、なかなか難しい。たとえば「頭蓋内手術」には、広義の脳腫瘍手術や、脳動脈瘤クリッピングなどの脳動脈瘤手術が含まれる。しかし、厚労省データは、そこまで項目分けしていないので、おおまかに「脳の手術」ととらえ、メディアが独自調査をしたものとつき合わせるなどしたらいい。

 なお、各医療機関は治療態勢が整っている手術項目について、その年の手術件数が「0」の場合でも届け出る必要がある。しかし、都道府県によっては解釈の違いなどで、治療態勢が整っていなくても「0」が入っている場合がある。今後、こうした点も含め、全国的な統一基準が作られるのを待ちたいが、いまのところ期待薄である。

 ここでは、心臓手術に絞って、そうやってデータを読み解くかを解説したい。というのも、手術が必要なあらゆる病気に関して、全部を解説するなどできないからだ。しかし、1つの見方がわかれば、ほかの病気も推して知るべしである。

 日本人の3大死因は、「がん」「脳血管疾患」「心臓病」である。
 2007年の1年間で約6万3000人が、この3大疾病のどれかで亡くなっている。つまり、これらの疾病は「生きるか死ぬかの病(やまい)」であり、命は助かっても後遺症に苦しむ可能性がある。だから、病院選び、名医探しは、生死の明暗を分けると言っても過言ではない。
 
「心臓手術を年25件未満しか行っていない病院の死亡率は年100件以上の病院と比べて約2倍高い」

 これは、日本胸部外科学会が2006年10月に、全国の約470の医療機関を対象にした大規模調査で判明した結果である。手術数の多さが生存率と比例するのは、すでに欧米では常識だが、日本においてはこの調査が初めてそれを実証した。
 ただし、欧米では年間1000件以上も手術を行う病院があるのに比べ、日本では年間100件未満の病院が68%もあるので、心臓手術の現実はお寒いかぎりと言える。

 では、日本では、どの病院が年間手術数が多いのだろうか?
 これは、厚生労働省が開示している全国4606病院(医療機関)の手術数を見れば、一目瞭然でわかる。ただし、その手術の内訳まではわからないので、それを知るには、たとえば、『プレジデント』誌に掲載された「心臓病」(心臓外科手術)の手術数による病院ランキングなどを活用するか、インターネットの医療情報サイトや直接病院のウェブサイトにアクセスするしかない。
 『プレジデント』誌のランキング表が親切なのは、心臓外科手術の内訳を、独自のアンケート調査で明らかにしていることだ。

手術で治す心臓病には、主に4種類ある。


 最も件数が多いのが「冠動脈バイパス手術」である。これは、心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を送る冠動脈が動脈硬化を起こして狭くなり、胸痛や息苦しさなどの症状が現れる「狭心症」や「心筋梗塞(こうそく)」を対象とする手術である。
 次が「弁膜症手術」で、これは、血液の逆流を防ぐ心臓弁の開閉に異常をきたしたときに行われる手術である。弁の形を整える弁形成術や、金属製などの人工弁に付け替える弁置換術が中心である。
 3番目が、「胸部大動脈疾患手術」で、主に大動脈瘤(こぶ)を人工血管に置き換える手術が行われる。大動脈というのは、心臓から全身に血液を送る血管であり、ここ「こぶ」ができる大動脈瘤は、こぶが破れてショック死する可能性もある。
 4番目は、生まれつき心臓の形に異常がある「先天性心疾患」で、この手術では開心して形を整える治療が行われる。

 そこで、『プレジデント』誌の表を見ていくと、どの病院がどの手術に強いかがわかる。もちろん、これはアンケート調査なので、答えていない病院があるが、冠動脈バイパス手術においては、榊原記念病院、順天堂大学医学部附属順天堂病院、岸和田徳州会病院、大和成和病院などに、その分野のスペシャリストがいることがわかる。

 外科の「名医」となれば、その腕前は「神の手」とも称せられる。では、そんな「神の手」を持つ医者は、具体的に誰なのか?
 私の目で見たこの分野の名医は、以下のような方々だ。

「心臓外科手術」で、真っ先に名前をあげたいのが、大和成和病院院長の南淵明宏氏である。大和成和病院は、先の手術数ランキングでも5位になっているが、これは、南淵氏の「腕」(神の手)を求めて、全国から患者が集まるからである。

 同じく心臓外科手術での分野では、榊原記念病院の高梨秀一郎部長が、人工心肺を使わない冠動脈バイパス手術や弁膜症手術では「名手」として知られている。また、順天堂大心臓血管外科の天野篤教授も、この分野では日本をリードする存在である。

 心臓病には「心カテーテル治療」というのがあり、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療では、いまやこのカテーテルが中心になっている。専門的には「PCI」(経皮的冠動脈インターベンション)と呼ばれ、手首や手足の付け根からカテーテルを入れ、風船やステント(網状の器具)を使って、狭くなった冠動脈を広げる。
 この「心カテーテル」の第一人者が、日本で初めてPCIを実施した小倉記念病院の延吉正清院長である。

 延吉院長は、毎年ライブによるデモンストレーション治療を行っており、これを24年も続けている。カテーテルというのは、まさに手先の器用さが要求される「技術」が命である。「押すべきところは押し、引くところは引く」と、延吉院長がNHKの番組で語っているのを見たが、この技術は経験なければ身につかない。だから、この技術を学ぶために、延吉院長のもとには全国から外科医の卵が訪れている。
 小倉記念病院では、カテーテルを担当する循環器科の医師数は38に上っている。また、心臓外科の医師数も10人と充実している。この充実した医師数のもと、小倉記念病院では、循環器科、心臓血管外科ともに24時間体制で患者を受け入れている。

 病院選びは名医選びでもあるが、名医1人だけでは手術は覚束ない。充実した医療チームがあり、バックアップが整っていることも、重要な決め手になることを忘れてはならない。

 以上、心臓病に関してだけで延べたが、がんや脳血管疾患に関しては、ここで示した方法で、1度、ご自分で調べてみることをお勧めする。
 最近は、「名医選び」や「最新治療ガイド」などの本も多く出ており、これらと病院のウェブサイト、インターネットの情報、口コミなどを組み合わせれば、名医への道は遠くないはずである。

 
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