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医療ミスの実例報告をチェックする その2 PDF 印刷 Eメール

■胃ガン患者に通常の3倍量の抗ガン剤を投与。患者は約10日後に死亡

(2000年4月27日、『朝日新聞』記事より)

 国内有数のガン治療・研究施設として知られる財団法人癌研究会付属病院(東京都豊島区、尾形悦郎院長、512床)で、胃ガン患者に化学療法を行なう際、誤って通常の3倍量の抗ガン剤を投与し、副作用で約10日後に患者が死亡していたことが分かった。主治医が薬剤の指示簿への記入を間違え、薬を準備する薬剤部もこの誤りに気づかなかった。病院は副作用による死亡であることを認識しながら医師法に基づく警察への届け出を行なっていない。事実関係を遺族に告げたのも2ヶ月以上経過した2000年3月になってからだった。

■担当医師が輸血ミス。一時危険な状態に

(1999年2月7日、各紙の報道から)
 
 京都大学付属病院で、舌ガン手術のため入院していた血液型のO型の女性患者(61歳)に、同病院の担当医師がA型の血液を輸血するミスをしていたことが分かった。
 女性は激しく痙攣し、血圧が低下と急上昇を繰り返すなど一時、危険な状態になった。血液型の確認を怠った単純ミスで、同病院は事実関係を認めている。
 
 同病院は、血液は病棟の冷蔵庫の上下2段の棚に複数の患者の分を保管しており、担当医師は取り出した棚にあるのはすべて女性患者用のO型血液だと思い込み、別の患者のA型血液を取り出したのに気づかなかった。パックには血液型の表示があったが、確認を忘れたという。

■10倍の点滴をされた乳児、副作用で血流障害を起こし指5本切断

(2000年8月26日、『朝日新聞』の記事より)

 茨城県つくば市の筑波大付属病院(深尾立院長)で、入院していた零歳児が院内感染の治療用の抗生物質を通常の10倍量点滴され、その副作用などで血流障害を起こして、手の指5本を切断する被害を受けたことが分かった。
 病院によると、主治医が別の患者の点滴量と間違えて副主治医の研修医に口頭で指示、副主治医も患者の体重などを確認せずに看護婦に点滴の指示をしていたという。同病院では1ヶ月前ほどにも、患者を取り違えて肺の切除手術をする事故が発覚したばかりだった。

[私の見方]

 投薬や輸血のミスというのは、あまりにも単純なミスである。どうしてこういったミスが起こるのか自分も医者のひとりとして本当に不思議である。患者のことを何も考えていないとしか言いようがない。ほかのことに気をとられていて薬の量にまで気がまわらなかった。薬剤部にしても、医者の指示を機械的に処理するだけだから、薬の量が大幅に違っていても何の疑いもなく調合してしまう。
 
 それに、薬剤部の人間が「先生、これちょっとおかしいんじゃないですか?」なんて言えない雰囲気が、医局には確かにある。もし間違ってクレームをつければ、あとで大変なことになりかねない。でも、この癌研のケースでポイントなのは、じつは患者の家族に事情説明をした部分である。ミスが起こってから、この事実を家族に伝えたのが治療の2ヶ月後だったという部分である。

 私は、事故自体はある程度しょうがないと思っている。本当はあってはならないことだが、大切なのは術後の医者の速やかな対応である。おそらくこの場合は、術後に異変を感じた患者の家族が病院にクレームをつけてミスが明らかになったのだろう。

 どんなことをしても人間がやっているかぎり、事故というのは起こり得る。飛行機事故でも列車事故でも。でも、問題はそれが起きたときの後の処理の仕方である。たぶんこれらの病院では、これまでも全部うやむやにしてきたのではなかろうか。だからこういうことになった。

■わきが手術で麻酔薬を注射され意識不明になり、その後死亡

(1999年5月27日、『朝日新聞』記事より)
 
 東京都豊島区の美容・形成外科の診療所で、わきが治療の手術のために麻酔薬を注射された都内の28歳の女性が、直後に意識不明になり、搬送先の大学病院で死亡していたことが分かった。

 女性はこの診療所で男性医師(27歳)に両脇の下の静脈に局所麻酔薬「リドカイン」を注射された。直後に「頭がぼ~っとする」と訴え、血圧が低下し、痙攣う引き起こして昏睡状態になった、という。

 医師は、女性に麻酔薬のアレルギーがあるかどうかの予備検査をしたうえで、この薬を注射したといい、その際、女性から「麻酔が効かない体質なので、麻酔薬を多めにしてほしい」という内容のことを告げられた、と説明している。

[私の見方]

 かりに患者が「私は麻酔が効きにくい体質(みたい)なので、麻酔の量を多くしてもらえませんか?」と言ったからといって、何の検査等もしないで患者の言われたままに麻酔薬を打ち、手術をするなんて、医者としての見識を問う以前の問題だろう。これはまともな医療行為とはいえない。

 麻酔というと痛みを和らげる薬とイメージしがちですが、本来ショックを伴う危険な薬である。この認識が最初から欠如した幼稚な行為といってもいいだろう。だから、麻酔を使うときはショックが出たときにすぐに対応できるよう、準備を常にしておかなければいけない。推測するに、こういった準備もほとんど行なわれていなかったと思える。

 こんな医療行為以前の医療ミスにもかかわらず、ほとんどの場合は表沙汰にはならない。なぜなら患者は口をきくことができないわけだから。結果的にこの事故が医療ミスとして表面化したのは、搬送先の大学病院の医者とこの医者の仲がツーカーではなかったからだ。もし、親しい関係だったら、この事故は突発的な医療事故として処理されたはずである。

 亡くなった女性には大変申し訳ないが、少し前までなら絶対に明るみにでることのなかったこのような医療ミスが公になったという意味で、この事故が社会に問題提起した意義は非常に大きいと思う。

■顔面神経麻痺で垂れ下がった眉を左右取り違えて手術

(1999年10月26日、各紙の報道から)
 
 東京大学医学部付属病院(東京都文京区、武谷雄二院長)で22日、顔面神経麻痺の女性患者の手術で、垂れ下がった眉の位置を戻す際、左右を取り違えていたことがわかった。患者の訴えで、病院側はミスに気づき、再手術を行って患者に謝罪した。

 女性は顔面神経麻痺で、右の眉が下がり、目が見えにくい状態になり、形成外科医が全身麻酔をかけた後、誤って左の眉毛付近の筋肉を糸で吊り上げて、固定する手術を行なった。麻酔から覚めた患者がミスに気づき、同日、左の眉の筋肉を元に戻し、改めて右の眉の手術を行なった。全身麻酔で左右の眉が下がるため、執刀部位を誤ってマーキングしてしまったという。

■左右骨折が左右を間違え右足に人工骨、再手術を待つ間に肺炎を併発して死亡

(1999年6月25日、『読売新聞』記事より)
 
 東京都立川市内の総合病院で1998年5月、足の骨折で入院した女性(88歳)が左右の足を取り違えて手術されていた。女性が入院中に死亡したため、遺族は「手術みすが死亡原因になった」として、病院側に損害賠償を求める訴えを東京地裁八王子支部に起こした。手術ミスがあったのは同市錦町一丁目の『立川相互病院(滝田杏児院長・350床)』。

 訴状によると、女性は左大腿の付け根を骨折して同病院に入院し、5月13日、折れた骨を取り除いて人工骨を入れる手術を受けた。ところが執刀した整形外科の医師は、間違えて異常のない右側の足を切開し、骨の一部を除去して人工骨を埋めてしまった。女性は再手術のために入院を続ける間に肺炎を併発するなどして亡くなった。

 病院の原因調査では、女性を診断した医師が記入した「手術申込票」に手書きで記入された「左」の漢字を執刀医が「右」と読み違えたうえ、患部を確認するレントゲン写真を裏返しに見てしまった。手術室で女性に確認したときも「右」と答えたようだったという。
 病院は調査をもとに、左右を英語で記入したり、病室を出る前に患部に目印のバンドを巻いたりする対策をとっているという。

[私の見方]

 この手の医療ミスは、それこそ掃いて捨てるほどある。一般の人が「まさか、そんなミスは…!?」と思うような医療ミスは大病院、町医者に関係なく日常茶飯事的に起こっているのだ。

 こういった事故が公になったのは、患者及びその家族に医者、病院に対する強い不信感があったことが想像できる。これから手術をする位置と違う方にマークされたわけだから、患者側もこの時代は、医者に意見することが恥ずかしいことでも何でもないという意識にならないとダメである。もしかしたら、「先生、右じゃなくて左なんですけど」と言っていたら、そこで事故は未然に防止できたかもしれないからだ。

 患者は自己防衛の手段のひとつとして、問診の際にしっかりとメモを取ることを、私はすすめる。医者に「言われること、目の前でメモを取らせてもらいます」と言うぐらいでないと、ミスは必ず起こる。そのくらいデリケートに医者と接しないと、もし事故が起こったときが大変である。なかには記録を取られるのを非常に嫌がる医者がいると思うが、メモを取らなかったら後で何が行なわれたのかわからなくなってしまう。

 医者の言葉をメモなりテープレコーダーなりで記録しておくことが大切になってくるのだ。

 アメリカの場合は、どんな処置をしても必ずこういう問題がでてくるから、医者は本当に大変である。どんな些細なことでも注意深く対応せざるを得なくなっている。医者が腫瘍を悪性と良性と間違えただけで、病院にもの凄い請求がくる。でもそれぐらいでないと、医療はよくならない。日本は今までが甘すぎた。医者のやりたい放題でやってきたわけだから。

■胆石で手術の際、腹にガーゼを置き忘れ、10年後、レントゲンで影。肝腫瘍の疑いで開腹し発見

(1999年6月4日、『朝日新聞』記事より)
 
 大阪府豊中市の男性会社員(62歳)が前年10月に、住友病院(大阪市)で開腹手術を受けたところ、腫瘍ではなく約30センチ四方のガーゼが出てきた。1988年10月、この男性が大阪府箕面市立病院で胆石の手術を受けた際に、執刀医が置き忘れたものと分かった。男性の腹部あったガーゼは、折り畳んだ状態で、肝臓の下部から見つかり、肉が絡んで幼児の拳ぐらいの大きさになっていたという。
 箕面市立病院によると、ガーゼが原因で男性が病気になった形跡はなかったが、腹膜炎にかかる可能性はあったという。

[私の見方]

 このケースでまさかと思うのは、お腹にガーゼがあった事実を、よく医者が患者に話したということである。ガーゼを体内に置き忘れる手術をした病院と、ガーゼを発見した病院がもし一緒だったら、このように公になることはなかっただろう。手術した病院が同じだったらお腹からガーゼが出てきたとしても、とりあえず執刀医は誰だったのかということが院内で問題化されるだけで、患者には話すことはありえない。ましてや生命には何ら関係のないミスである。表面には出ていないだけで、この手のミスはそれこそ掃いて捨てるほどあるのだ。

 ところで、この事件にかぎらず、一連の医療ミスの報道をみていて私が問題だと思うのは、こういった医療ミスが起こってもほとんど個人名が公表されないということだ。医療ミスが公になっても、報道されるのは病院名だけ。私は、医療ミスを少しでも減らすには、当事者がきちっと公の場に出て謝るべきだと思うが、実際はなかなかそうはならない。ならば個人名がしっかりと報道されるようになれば、(医者の間に)危機意識が生まれ、少しはこういった単純ミスもなくなるだろう。
 
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