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メタボなんか気にするな! 小太りでいこう
メタボなんか気にするな! 小太りでいこう - こんなに変わった高血圧の数値 PDF 印刷
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メタボなんか気にするな! 小太りでいこう
多少のメタボの方が健康で長生き
基準値という名のトリック
こんなに変わった高血圧の数値
高血圧患者はなんと3000万人もいる?
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こんなに変わった高血圧の数値

 
 私が医学の道に入ってからすでに30年以上が経つが、この間に高血圧の数値はずいぶんと変わった。高血圧というのはほとんど数値のみで判定するから、この数値の認定の仕方が変化すれば、正常が異常になる。

 もちろん、それは数値を改竄するということではない。そんな大がかりのことなどする必要はない。ただ、ちょっと基準値の幅をいじくればいいのだ。つまり、正常とされる数値の幅を狭くすれば、異常とされる数値の幅が広がる。たったこれだけで、患者の数がどっと増えてしまう。

 1960年代の後半、日本中の医学部でもっとも広く使われていた教科書の1つが『内科診断学』(7版 1969年)という本だった。私もこの本で勉強した。

 この『内科診断学』は、のちに臨床医として初めて文化勲章を受賞する沖中重雄氏が、著者の一人に名を連ねる権威ある教科書で、そこには「健常者の血圧」として「日本人の年齢別平均血圧」が示されていた。年齢別平均血圧に近い数字の算出法は「最高血圧=年齢数+90㎜Hg(以下を㎜Hgを略し、数字で表わす)」で、この「年齢数に90を加えた数字よりも低ければ、血圧は正常」という診断法が、当時の主流であった。

 沖中氏たちは血圧の正常値を150/100と考えていたようで、この教科書には最高血圧が150、最低血圧が100より高い人々の割合が示されて、血圧が150/100以上の高血圧患者の割合は、45歳から49歳の男性では12.7.%、女性は13.7%と記されていた。55歳から59歳でも、男性は 36.2.%で、女性は 31.3%である。

 ところが、これが、1970年代に入ると、世界保健機構(WHO)が、最高血圧を160以上、最低血圧を95以上と規定したことから、日本でも160/95以上を高血圧とするようになった。つまり、この時点で、正常とされる数値の幅がやや広がってしまった。しかし、この160/95以上が、その後長いこと国際標準とされていたので、いまでも高齢の方はそう考えていると思う。

 が、1993年になると、WHOと国際高血圧学会(ISH)が、新しい分類法を発表した。血圧の正常値を「最高血圧が140未満、最低血圧が90未満」と大幅に変え、最高血圧が140、最低血圧が90のいずれかを超えたときには、「境界域高血圧」と呼ぶことになった。これは、正常値と異常値の間に、グレーゾーンを作って、より血圧の診断を緻密にしたわけだが、これをなんと日本では悪い方(つまり医者がトクできる)に解釈することしてしまったのである。

 厚生労働省の保険局国民健康保険課が監修する小冊子に、『血圧と健康』というがある。
 これによると、「血圧は個人差がありますが、WHOでは、最高血圧が140以下、最低血圧が90以下を正常血圧、最高血圧が160以上、最低血圧が95以上を高血圧としています。その中間は境界域血圧と呼びます」と、いかに「境界域血圧」が悪者のようになっている。

 が、WHOの指針は、血圧が140/90を超えると「境界域高血圧」と呼んで、「毎日の生活に気をつけましょう」ということにすぎないのだ。ところが、いつのまにか日本では最高血圧なら140、最低血圧なら90の、いずれか一方が超えても高血圧ということになってしまったのである。

 つまり、グレーゾーンも異常値に含めてしまう方向に進んでしまった。その結果、かつては治療の対象とならなかった人が、血圧が140/90を超えただけで、定期的な血圧測定の対象にされることになったのである。

 2004年、日本高血圧学会は、診療指針を改定し、65歳以上の高齢者については、「降圧目標値」(下げるべき数値)を従来のグレーゾーンの「140~160」から「140未満」に引き下げた。ところが、奇妙なことに、この診療指針には「この目標値が妥当かどうか、現在のところエビデンス(証拠)がない」と書かれている。
これを数値のトリックと言わないで、なんと言おう。
 
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