誰もが悩む渡し方と相場
誰もが悩む渡し方と相場 - 「謝礼」の相場と医者の腕との関係 |
ページ 6 の 9 患者にとっての大きな問題は、「謝礼」を払った医者の腕が、払うに値するかどうかいう問題だ。払ったはいいが、手術がヘタでは患者は浮かばれない。 1人の医者の技術に100万円もの謝礼を払うのは、それに見合う成果を期待してのことである。あもちろん、単なる「安心料」ということもあるが、相場がある以上、それは経済の原則から言って、「質の高い医療」に対して市場が付けた「価格」でなければならない。つまり、肝心なことは、医者の技術と「謝礼」の相場が妥当であるかどうかだ。 外科医ほど、その技術に大きな個人格差があるのは、医者ならほとんどが知っている。しかし、一般の患者にはそんな知識はない。だから、ほとんどの人が肩書きで医者を判断してしまう。しかし、外科医の場合、これほど危険なことはない。もちろん、教授で医者としても優秀で、技術も高いという人は多い。だが、「教授だから腕がいい」とは限らないのである。 大学病院の場合は、医療を実践する病院そのものと、医学部としての教育や研究をする組織が重なっていて、医師たちは多くのポストを兼任することになっている。つまり、主任教授が権力の中枢にいて病院では診療部長というポストにある。その下に副部長クラスの助教授がいて、講師、助手、研修医というふうに階層が続く。研究実績が優秀で教授になった人や、政治力だけでのし上がったという人もけっこういて、こういう人たちのほうが「名医」として紹介されことも多いのだ。 教授になれば次は学会の会長になりたい。何々外科学会、何々内科学会の会長職というやつである。会員に推されてなる人はそれほどのお金は必要としないが、どうしても会長になりたい人は1本は必要だという。1本とは1億円のことである。 だから、大学教授や研究者で名医なんて紹介された人は、学会発表が多いだけで手術がうまいわけではないし、診断能力が高いわけでもない。こういう先生たちは病院内のことより外の仕事が多いから、どうしても若い医者に任せてしまう。同僚には頼めない。部下の助教授や講師は忙しい。若い医者も暇なわけではないが、人事権や博士論文の審査権など絶大な権限を持っている主任教授には、天地が引っ繰り返っても逆らえないのだ。 そんなやりかたで大丈夫なのかと心配するが、助教授たちは平気なのである。 「なぁに、彼らも自分の能力くらい知っているから、患者に手なんか出しませんよ。若い医者に手を出されるほうがかえって怖い。どうせ、こっちにまわってくるんです。教授は『後生だから頼む』なんて頭は下げられないけど、『世話になったみたいだね』ぐらいで済ませてしまう。そんなもんですよ」 だから、そんな教授に高い「謝礼」を払っても、患者さんに対する気持ちは「そんなもん」にすぎないこともあるのだ。 |