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Dr Fuke 「日本の医療を考える」Blog(ときどき更新)

       「医療を斬る!」



「医師不足」はなぜ起こったか? 第2回 PDF 印刷
2009年 3月 17日(火曜日) 22:57

妊婦たらい回し事件(その2)

妊婦の搬送は大都市ほど拒否されている

 2008年10月に起った「妊婦たらい回し事件」の衝撃は大きかった。脳内出血を起こしているというのに、どこの病院でも搬送を拒否され、ついに手遅れになってしまったからだ。
「誰も責める気はなく、裁判を起こすつもりもない。赤ちゃんを安心して産める社会にしてほしい」
 と、この妊婦の夫は語ったが、はたしてそんな社会が実現できるのだろうか?

            ■

「妊婦たらい回し事件」を受けて、読売新聞は全国各地の「総合周産期母子医療センター」を対象に、急患の受け入れ状況の調査をした(2008年11月2日 読売新聞)。
 その結果を見ると、搬送の受け入れを「断る場合がある」というセンターは4割弱に上っており、とくに大都市部で多いことがわかった。
 この調査は、各センター71カ所の状況を把握していたが、妊産婦の受け入れを要請された場合、「断る場合がある」は26カ所。その内訳は、東京都内の全9カ所、神奈川、福岡県の各3カ所、大阪府と栃木県の各2カ所、埼玉、千葉、茨城、群馬、和歌山、広島県と京都府の各1カ所。首都圏の1都3県では回答した15カ所のうち、なんと14カ所(約93%)に上っていた。断る理由で最も多いのは「新生児集中治療室(NICU)の満床」で、ほかに「医師不足」「手術中」などもあった。

 このように、大都市部では「拒否率」が高いが、逆に地方では大半が「原則すべて受け入れる」としていた。ただし、どこのセンターも、産科医不足を背景に、土日などに「当直2人体制」が維持できないところが多く、その割合は5割近くに上っていた。
 都立墨東病院がいったんは妊婦受け入れを拒んだのは、「土曜日で当直医が1人しかいない」との理由だった。
 つまり、緊急医療現場においては、医師不足はもはや取り返しがつかないところまできているのである。これは、産科救急だけに限らないから、いざというとき、医者不足で手当が受けられないということが、今後も起こりうる。
 あなたがその当事者にいつなるかもしれない。いまの日本は、そんな時代になってしまったのである。

 最近の医者の卵たちは、ともかく面倒なことが多い救急現場や外科手術を敬遠する傾向が強い。
 産婦人科医が減ったのは、少子化で儲からなくなっていることもあるが、当直がきついからである。また、外科医も一部の診療科目をのぞいて減少しており、これは手術が面倒、失敗したら訴訟リスクがあるなどの理由で、なり手がどんどん減っているのである。
 最近は、医学部に入り医者を志したというのに、「血をみるのがいや」という若者がいるので、私はあきれている。

 産科救急に話を戻すと、「新生児集中治療室(NICU)」はあっても、医者や看護婦が足りない。それで、受け入れようにも受け入れられないというのが、実情だ。
 現在、集中治療によって未熟児の生存率は飛躍的に向上し、日本は世界でもトップ水準を維持している。しかし、NICUも医者も不足し始め、助かる命も助からなくなってきた。
 もちろん、行政側も事態を憂慮し、NICUの増床を進めてはいる。
 前記した札幌市のケースでは、受け入れを打診された北海道立子ども総合医療・療育センターは、事件の2か月前に開設され、NICU9床を設置予定だった。ところが、看護師の確保ができず、6床で稼働していた。都立墨東病院でも、2008年春、NICUを3床増やして15床にしたが、看護師不足のため増床分は使っていなかった。

 これは、都市部の大病院に共通することで、舛添厚労相が「見直し」を言ったところで、医者や看護婦のなり手がいなければ、どうしようもない。
 産婦人科医は、ここ10年で約1割も減っている。これは少子化のスピードを上回っており、この医師不足がさらに勤務状況を悪化させ、志望者を減らす悪循環を生んでいる。

 日本産科婦人科学会が、2008年春に行った調査では、大学病院の産婦人科医の1カ月の当直は平均6回。最も多い医師は15回だった。この医師の勤務時間は、なんと月505時間に達し、これは、休日をまったく取らずに1日17時間働いた計算になる。これでは、なり手がいなくなるのも無理はない。
 つまり、産婦人科に限らず、医師不足の悪循環を止めるためには、働きやすい環境の整備が不可欠だ。ところが、いまの病院は慢性的な赤字経営で、環境整備などに手が回らない。それなのに、文科省は2009年度から医学部の定員を大幅に増やすことを決めている。
 医者の育成には時間がかかるから、定員増をしても、問題はすぐには解決しない。

 最近の産婦人科の傾向は、10年で現場を離れる医者が多いことだ。とくに女性産科医の場合、仕事と育児の両立に悩み、出産の現場を離れる人が多い。
 じつは、女性医師は年々増加している。医師全体に占める女性医師の割合は、とくに産婦人科では多く、日本産婦人科医会の2005年末の集計では、20代で7割以上、30代で3割以上が女性医師である。ところが、女性産科医はママさんになると、当直や出産がある「お産診療」を止めてしまうのだ。

 

 

最終更新 2009年 9月 10日(木曜日) 02:24
 
「医師不足」はなぜ起こったか? 第1回 PDF 印刷
2009年 1月 05日(月曜日) 17:25

妊婦たらい回し事件(その1)

    1年間に、なんと2万4000回も発生している!

 
 2008年10月、脳内出血を起こした東京都内の妊婦が、緊急時の受け入れ先になっている7つの病院をたらい回しにされて出産後に死亡するという、痛ましい事件が起った。いわゆる「妊婦たらい回し事件」だが、これは、東京都にかぎったことではなく、近年、全国で頻発している。
 いったいなぜ、こんなことが起るのか? 
 その背景にある「医師不足」問題をシリーズで考えていきたい。
              ■
「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、医者、病院、都、国が力を合わせて改善してもらいたい」
「誰も責める気はなく、裁判を起こすつもりもない。赤ちゃんを安心して産める社会にしてほしい」
 これは、「妊婦たらい回し事件」死亡した女性の夫の言葉だ。いまの日本の医療現場の荒廃を、これほど考えさせる言葉はない。
 この妊婦は、じつに7つの病院をたらい回しにされたあげく、最終的にいったんは受け入れを拒否した都立墨東病院に運ばれた。しかし、すでに手遅れだった。
 都立墨東病院といえば、「総合周産期母子医療センター」を掲げる大病院で、地域の中核的な医療施設である。しかし、最近は医師集めが難しくなっていて、救急患者に対して十分な対応ができなくなっていた。
 大都会の、それも東京のど真ん中で、医者が足りないなどといことがあるのだろうか?

 事態を重く見た舛添要一厚生労働大臣は、事件後すぐに都立墨東病院を視察した。そして、記者団に、次のように言った。
「医療や介護は地域に密着したものなので、地域で力を合わせて問題解決を行わないといけない。だが、やはり構造的な問題は医師不足だ」
 現在、日本は約28万人の医者がいる。しかし、それだけでは人口比からいって足りないというのが、近年の定説になっている。ただし、ただ足りないというのではなく、とくに、産婦人科医など特定の診療科にそれが顕著だということに、この問題の深刻さがある。また、2004年からスタートした臨床研修制度も、この問題の背景にある。
 実際、舛添厚労大臣は、さらにこう付け加えた。
「全国の総合周産期母子医療センターの実態把握や、医師不足の原因とされている臨床研修制度の見直しを急ぎたい」
 しかし、いくら急いでも、いったん減ってしまった医者の数がすぐに回復するわけではない。なぜなら、医学部は6年間あり、卒業してもそれで一人前の医者になるわけではないからだ。
 文部科学省は、今年から、医学部の定員を増やすことにあしたが、そうして増えた医者が現場につくのは、あと何年も先の話である。
 
 この都立墨東病院の事件から1カ月もたたないうちに、2007年11月に、札幌市の自宅で30歳代の女性が早産した未熟児(約1300グラム)が7病院で受け入れられず、その後死亡したという事件が報じられた。
 2007年に、救急搬送で医療機関から3回以上受け入れを拒否された「たらい回し」は、全国では、2万4089件(重症、妊婦、小児)も報告されている。
 その理由をあげると、
 1、処置困難
 2、手術・患者対応中
 3、医療訴訟のリスク
 4、搬送・受け入れの総合調整を含め消防と医療機関の情報連携不足
 などだ。
 総務省消防庁によると、2007年に1回の受け入れ先照会で患者の搬送先が決まったのは80%。しかし、残りは、受け入れ先がなかなか決まらず、最大では、62回も受け入れを拒否された例があるというから驚く。

 
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